――大広間・夕刻
久秀:………?
どうやら少し、微睡んでいたらしい。
窓の外は、すっかや闇に包まれていた。
佐助:ただいま~。って、あれ?まだ誰も帰ってないの?
久秀:そのようだな。何か見つかったか?
佐助:てんで収穫なし。鬼の旦那も相変わらず居ないまんまだし。
旦那は竜の旦那と決闘始めちゃうし。放ったらかして帰って来ちゃったよ。
政宗:I feel so tired……
小十郞:しゃきっとなさいませ政宗様。
佐助:あ、おかえり~。旦那は?一緒じゃないの?
政宗:途中で小十郞がぶち切れてな。正座で説教食らってたんだが……
あの野郎、いつの間にか逃げやがった。
佐助:あ~、ごめんね。なんかお手数おかけしたみたいで。
小十郞:気にするな。こっちも日常とさしてかわらねぇ。
真田は……まだ戻って無いのか。
光秀:何かあったんですかねぇ……んふ。
佐助:っ!!!ちょっと……いきなり耳元で不吉なこと呟かないでくれる?
光秀:これは失敬……くくくく……。(去)
佐助:……。
元就:今戻った。
小十郞:随分泥だらけだな。何処まで探しに行ってたんだ?
元就:貴様等には関係のないことだ。……む?
政宗:Ah?どうした?
元就:祭壇の上に……紅い布が置いてあるぞ。
久秀:ふむ、確かに。
政宗:待て。その布の上、何かのってねぇか?
小十郞:これは……。……っ!?
元就:どうした?
祭壇をのぞき込んで、目を見張る。
首に紐を巻き付けられた小さな藁人形が、
静かに寝かされていた。
政宗:まさか……また似たような事が?
元就:紅い……人形。
佐助:……………。………旦那!!!
彼等はすぐさま外へ走り出した。
廊下でメイドとぶつかりそうになり、寸手で止まる。
お市:きゃ……
政宗:悪い。急いでんだ。
佐助:ねぇ、アンタ旦那みてない!?
お市:旦那……?ああ、あの……紅い人……。帰ってきたよ……
貴方が帰ってくるより前に……。もう……お部屋じゃないの……?
踵を返し、東館へと急ぐ。
辿り着いた七号室は、不気味な程静まりかえっていた。
戸は、内側から鍵が掛けられていた。
彼等は夢中で戸を叩く。
政宗:おい!お前、鍵持ってねぇのかよ!?
佐助:さっき外出るとき預けたまんま。まだ多分大広間に置いてある。
元就:何故取ってこないのだ!
佐助:急いでたんだから仕方ないだろ!
小十郞:落ち着け。兎に角お前は呼び続けろ。鍵は俺が取ってくる。
佐助:頼む。……旦那!旦那!ねぇ!居ないの!?返事してよ!旦那!
久秀:ふむ。漸く事件簿っぽい雰囲気になってきたな。
政宗:満足げに微笑んでないで、てめぇも鍵取ってこい!
久秀:そんなことをするより、力ずくで開けてはどうだ?
ほら、ドラマなんかだと体当たりでぶち破っているだろう。
元就:だから、何故貴様はそんなに嬉しそうなのだ?
佐助:もうイイ。こうなりゃぶち破る。
政宗:Ha!?ちょっと落ち着けよお前!ドラマやアニメなら兎に角、
実際やったら確実に脱臼すんぞ!?
佐助:イイ。自力ではめられるから。せぇのっ……!
幸村:何の騒ぎでござるかぁ~……?(開)
佐助:うわっ……と。だ、旦那?
政宗:お前……大丈夫なのか?
幸村:ふあ……(欠伸)。何がだ?夕御飯まで一眠りしていたのだが……
佐助達の騒々しい声で目が覚めちゃったでござる……。
佐助:あ……………御免。
久秀:………。期待はずれな展開だな。
佐助:(睨)
久秀:失敬。
幸村:……?何かあったのか?
元就:気にするな。単なる早とちりだ。
幸村:む?……皆居るのかと思ったが、片倉殿と慶次殿は居られぬのか?
政宗:小十郞は鍵を…………uh?前田?
佐助:そーいえば……いないね。
元就:影が薄くて忘れておったわ。
久秀:卿等も大概酷いな。
政宗:前田の部屋、急ぐぞ。
辿り着いた五号室。
戸を開いてすぐ、視界に飛び込んできた物。
天井から垂れた、縄に下がるは人の影。
表情を隠す、狐の面。
首を括られた人形そっくりに、それは静かに揺れていた。
佐助:これって……
政宗:前田……?……っ!!!!
近づこうとした瞬間。強烈な光が視界を覆った。
窓の外ではじけた、閃光弾のような何か。
目を灼かれ、数秒何も見えなくなる。
元就:な、なんだこれはっ!
幸村:目がチカチカするでござる~!
小十郞:落ち着け!しばらく瞼押さえとけ。痺れが引いたら、ゆっくり目を開け。
政宗:っ……。Ah~……漸く見えてきたぜ。……………何っ!?
回復した視界。その向こうには………何も、無かった。
先ほどまで確かにそこにあったはずの、人影。
その姿は何処にもなく、空っぽの部屋が有るばかりだった。
小十郞:どういう、ことだ?
佐助:はは……こっちが訊きたいよ。
幸村:慶次殿~。何処でござるかぁ~?
元就:まさか……このような……ことが……っ。
政宗:………。
――大広間
久秀:ではこれより、明日菜島連続失踪事件特別捜査本部合同会議を始める。
まずは状況確認から入るとしよう。
元就:何だコレは。そのホワイトボードは何処から持ってきた。
佐助:つーか、俺達警察じゃないし。こんなのに付き合う義理無いよね。
久秀:全く最近の若者は……。人が二人消えているのだぞ?不謹慎だと思わんかね?
小十郞:てめぇの嬉々とした表情が一番不謹慎だ。
幸村:特別!捜査!本部!
政宗:此処に嬉々としてる奴がもう一匹いるぞ。
久秀:まぁそう堅苦しく構えることはない。話が長くなりすぎて収拾が付かなくなる前に、
一つ方向性を確認しようと言うだけの話だよ。
政宗:そういう書き手の裏事情をさらっと暴露すんじゃねぇよ。
久秀:まず、第一の事件は早朝に起きた。事件のあった東館六号室へ入るためには、
必ずこの大広間を通過する必要がある。しかし、朝には食事の用意をする
世話人達と、私、毛利が居た。
元就:外から入ったのかもしれぬではないか。
久秀:確かにあの時間、その他の人間は外に居た。が、窓は嵌め殺しな上、
鉄格子が嵌っている。外部からの侵入は不可能だ。六号室の鍵は開いていたものの、
これは事実上、密室殺人ということだな。
佐助:アンタ、ただ「みっしつさつじん」って言ってみたいだけでしょ……(呆)
第一、たまたま俺様と旦那が鬼の旦那を探しに行ったのが早朝だったってだけで、
事件自体は夜中にあったのかもしれないだろ。
久秀:確かに、その線はあるな。しかし夜間は、大広間の鍵が閉められている。
西館と東館の行き来が出来ない以上、自ずと犯人は東館の人間のみに限られるぞ。
佐助:なっ……!
幸村:東館というと……某と佐助と慶次殿と元親殿。
光秀:あとは私たちですねぇ……くく。
お市:市が……犯人……うふふふ………アアァァハハハアハハハ!!!!!
政宗:なんでてめぇ等は嬉しそうなんだよ。
久秀:まぁ世話人達という可能性は低い。そんなことをしたところで、
彼等には何ら利益がないからな。
佐助:さっきも言ったとおり、鬼の旦那の自作自演って可能性は?
久秀:その線も考えた。だが、それは無いことが判明した。見るがいい。(ぴっ)
政宗:テレビアニメ……?
小十郞:女子高生が踊り狂ってるな。
久秀:彼の特徴から察するに、これを見ずに、自ら行方をくらますとは考えにくい。
佐助:うっ。確かに……。
政宗:それで納得できるところがすげぇよな。
元就:………。ひとつ、良いか。
政宗:Ah?どうした?
元就:元親の事なのだが……
幸村:元親殿が、如何したのだ?
元就:………。いや、良い。忘れろ。
幸村:……?
久秀:では、第二の事件の検証に移ろう。藁人形を見つけ、その身に纏った色から
真田を連想した我々は、全員が七号室へ向かった。
しかし、真の事件は、その後に向かった五号室で起きていた。
ここまで来て、私には漸く事件の真相が見えたのだ。
政宗:何?
幸村:犯人が分かったのでござるか!?
久秀:その通りだ。事件は全て、東館で起こっている。つまり犯人は……
伊達政宗。君だよ。
政宗:Ha?
小十郞:貴様ぁ!政宗様を愚弄するか!叩き斬ってくれる!
政宗:いいから一端葱をしまえ、お前は。……おい、おっさん。
どういう根拠か訊かせて貰おうか。
久秀:簡単なことだ。東館で事件が起きている……ということは、西館の人間には
無理と考えるのが妥当。しかしこういう場合、大概一番犯人じゃないっぽい奴が
犯人なのがお約束。ということは、西館の人間で、一番駆けに追い詰められるのが
似合いそうな人間は……伊達政宗、君だよ。
政宗:………。
佐助:なんか、つっこむ気力もないよね。
元就:「っぽい」だの「似合いそう」だの。大人として恥ずかしくないのか貴様は。
幸村:全然納得できないでござる。
久秀:ふむ。非難囂々だな。
小十郞:当たり前だ!
佐助:まぁまぁ、これ以上議論しても無意味でしょ。もう遅いし、さっさと休もう。
部屋の鍵はしっかり閉めて、ね。
――七号室
幸村:元親殿と慶次殿……無事であろうか?
佐助:さぁね。俺達が見た光景が幻じゃないんだとしたら……どっかに転がってても
不思議はないよね。
幸村:不謹慎なことを申すな!
佐助:御免。ま、殺しても死ななそうな奴らだし、どっかで伸びてるんじゃない?
それより旦那、自分の心配しなよ。
幸村:何故だ?
佐助:何故って……アンタ、忘れてないよね?ここへ来たのは、一人しか権利のない
宝を手に入れるためだって。
幸村:!
佐助:完全に忘れてたね……。イイ?多分、二人とも誰かの手で強制的に
戦線離脱させられてる。俺も最初は楽観的に見てた。でも……
やっぱり、これ「犯人」がいるよ。これだけ広い敷地じゃ、
誰か外部の人間が潜んでてもおかしくはない。でもやっぱり怪しいのは内部の人間。
誰かが、邪魔者を順々に消そうとしてるって考えるのが自然なんだから。
幸村:そ、そのようなこと……
佐助:有る筈がない、とは言い切れないでしょ。不用意な行動は慎んで。
そうじゃなくても、今日俺がどんだけ寿命縮んだと思ってんの。
幸村:それはすまないとは思うが……俺は皆を疑うようなことはしとうない。
佐助:(溜息)ホント分かってないね。これは馴れ合いじゃ……
幸村:あぁ!さっき手合わせをした際、政宗殿に手ぬぐいをお借りしたのだ。
返してくるでござる!(走)
佐助:あ!ちょ、旦那!……あ~あ、出てちゃった。まったく、世話の焼ける……。
……ん?
――「お二人でおのみください」
佐助:テーブルに、紅茶なんか置いてあったっけ?
「おのみください」のメッセージカード付きってことは………
メイドが置いていったのかな?
………?この匂い……。これは……
――「おのみください」
佐助:…………。
――大広間
政宗:何なんだよ話って。もう寝ようと思ってたんだ。手身近に頼むぜ。
元就:う、うむ……元親のことなのだが……。
小十郞:どうした。
元就:実は……。………む?
政宗:なんで止まるんだよ。さっさと話せよ。
元就:いや、祭壇に………………また、何かある。
政宗:何!?
小十郞:これは……藁人形と……
政宗:Tea cup…?なんで、こんな物が……。
幸村:あ!政宗殿!先ほどお借りした手ぬぐいを持ってきたぞ!
政宗:幸村が此処にいる……って事は
元就:彼奴は今、部屋に一人。
小十郞:世話人達は、部屋に?
元就:まだ広間の奥で、朝食の仕込みをしている。
政宗:東館自体に、アイツしかいねぇわけだ。
幸村:な、なんの話でござるか?手ぬぐいなら、ちゃんと洗ったでござるよ?
政宗:七号室、急ぐぞ。(走)
小十郞:御意。(走)
元就:真田、お前は………此処に居ろ。(走)
幸村:?
――七号室
政宗:嫌な予感、的中かよ……
割れた陶器。床を流れる、液体。
打ち捨てられた人形のように、部屋の中央に頽れた者。
小十郞:毒……でしょうか。
政宗:さぁな。だが、また目くらましを使って消えられちゃ適わねぇ。
近づくから、お前等、気ぃ張っておけよ。
だが、近づき、触れても、
それは消えることは無かった。
薄く開かれた、焦点の定まらぬ目が、此方を見上げている。
元就:……伊達?
政宗:………。幸村はどうした。
元就:広間に、止まるよう言っておいた。
政宗:そうか………。
元就:………。
小十郞:………。………真田?
政宗:っ!
廊下に佇み、不安そうに此方を見ているのは
元就:何故来た!広間にいるよう言った筈だぞ!
幸村:何か……あったのかと……。如何……したのだ?
そこは、某と佐助の部屋だぞ?
小十郞:………。
幸村:佐助が…………佐助に…………何か…………?
政宗:広間に戻れ。そこで説明する。
幸村:………政宗殿。通してくだされ。
政宗:いいから、一度広間に戻れ。
幸村:戻らぬ。そこを退け。
政宗:戻れっていってんだろ!
幸村:邪魔立てするな!何があったのだ!?佐助!(走)
政宗:止めろ!
――数時間後・大広間
久秀:何故起こしてくれなかったのだ……卿も冷たいな。
元就:あれだけ騒いで、起きてこない方がどうかしておるぞ。
久秀:それで?今はどうしている。
元就:真田なら、傍らに座り込んだまま、動こうとせぬ。
久秀:ふむ。たった一昼夜で三人。敵も然る者だな。
お市:だから……言ったのに……。大猩猩様の……呪いだって………
一同:………。
お市:まだ……半分も残ってる。まだ……終わらない……。
みぃんな……消えて……なくなるの……ふふっ……うふふふふ
光秀:くふふふ………。
お市:うふふふふふ……。
光秀:くくくくく………。
政宗:なんだよ……この気色悪い二重奏……。
久秀:しかし、呪い、か。悪くない考え方かもしれないな。
小十郞:と、いうと?
久秀:この調子で減っていけば、最後に残った者が犯人だ。分かり易くてイイじゃないか。
元就:貴様……
政宗:俺ぁそんな消極的な考えは御免だぜ。(立)
久秀:おや?何処へ行くのだ。
政宗:こんなところでウダウダ話してても仕方ねぇ。
他の権利者か、謎のおっさんか、怪しいが服来て歩いてるような使用人か、
呪いの大妖怪か。いずれにせよ、お宝ほしさにくだらねぇ演出してんなら、
その元を断ってやりゃあイイ。
元就:………。
政宗:俺ぁ探すぜ。謎の答えをな。とっと宝手に入れて、
この馬鹿げたGAMEを終わらせる。(去)
小十郞:政宗様、お供いたします(追)
久秀:ふむ……青いな。卿は行かないのか?
元就:……。
久秀:まぁ良い。私は私で捜査に当たろう。書庫でも当たってみるとするか。
――夕刻・書庫
久秀:ふむ。
政宗:呑気なもんだな。捜査が仕事だろ、アンタ。
久秀:おや?居たのかね。文献には様々な情報が書かれて居るぞ。
私なりの捜査方法だ。
政宗:ほぉ~。その「島の名物料理百選」にどんな重要情報があるってんだ?
久秀:美味しそうだぞ?
政宗:ああ、そうかよ……(呆)
久秀:連れはどうした?
政宗:地下に、倉庫みてぇのが有るのを見つけてな。それらしいものを探してるぜ。
俺も付き合ってたんだが、茶でも飲んで休憩してこいって無理矢理追い出されてな。
久秀:茶か。では、私も付き合うとしよう。
政宗:………。
久秀:そうあからさまに嫌そうな顔をするな。私とて傷つくのだぞ?
――大広間
政宗:Uh?元就?
元就:……。
政宗:お前、ずっと此処に居たのか。
元就:いや……我も外へ出ていた。数時前に戻ったのだが……
政宗:……?どうした。
元就:祭壇に、これが。
政宗:Ah?なんだ、こいつは?
元就:燃えかすだ。
政宗:燃えかすって……まさか、人形の!?
瞬間、けたたましい爆音が響いた。
窓硝子が震え、黒い煤が風に乗って、隙間から流れ込んでくる。
驚きの言葉を発するのももどかしく、音のした方――七号室へと急いだ。
――七号室
久秀:七号室……だった場所、だな。
爆発物によって、吹き飛んだ其処は、
もはや何も残っていなかった。
残骸の散る床に、ひと繋ぎの銭が転がっている。
政宗:アイツ……ずっとここに居た、のか?
元就:………。
光秀:ちょっとよろしいですか……?
政宗:今シリアスっぽい空気を出してんだよ。お前は引っ込んでろ。
光秀:冷たいですねぇ……くくくく。
お市:話………聞いて。
元就:なんだ、貴様も居たのか。
お市:今、市達が広間に入ったら……祭壇に、これが……
政宗:!!!
椀に張られた水。その中に、乱暴に押し込まれた人形。
久秀:私たちが広間離れたのは、ほんの一瞬前だというに。手際の良いことだ。
元就:今、ここに居らぬ人間……
政宗:……小十郞っ!!!!
残された人間達は、屋敷内、その周辺を隈無く探し回ったが、
その姿が見つかることはなかった。
水に浸けられた人形。周囲を海に囲まれた島で、考えられることはひとつ。
――夜・大広間
久秀:10人もいた人間も、4人にまで減ってしまった……事件も終盤戦。
これはいよいよ推理を開始するときだ。
政宗:もっと早く開始しろよ、腐れ刑事………
久秀:う~む、イマイチ覇気が足りないようだな。
元就:この状況で、機嫌の良い阿呆は貴様だけだ。
久秀:やれやれ。何を落ち込んでいるのやら。卿等が消えた人間達を案ずる気持ちも
分からぬではないが……根本的なことを考えろ。
コメディだぞ?いわゆる「どうせ生きてんだよ」パターンだぞ?
政宗:だから!そういう事情を口に出して言うんじゃねぇよ!
久秀:漸く元気が出てきたようだな。若者らしくて好感が持てるぞ。
偉大なる探偵には、優秀な助手が不可欠だからな。
政宗:誰がワトソン君だ。
元就:誰が美人秘書だ。
久秀:分かっているじゃないか、己のポジションというものを。
では、私の推理を述べよう。犯人は………この中にいる!
政宗:……。
元就:……。
お市:……。
光秀:……んふ。
久秀:卿等は実に空気が読めないな。折角一人一人抜きのアップなのだ。
驚愕の表情を浮かべずにどうするんだね?
元就:もうイイ。さっさと話をすすめろ。
久秀:そう焦るな。まずは、移動していただこう。
――崖
お市:高い……。
元就:此処が、なんだと言うのだ?
政宗:どうせアレだろ。犯人を追い詰めるのは崖に限るとか言い出すんだろ。
久秀:おや?分かっているじゃないか。
政宗:Ah~……もう此奴いちいち面倒臭ぇ……。
久秀:では改めて。犯人は………
「毛利元就、卿だ。」
元就:………~~。
久秀:そのキャベツの中にナメクジを発見したときのような表情はなんだね。
もう、頽れて自供しても良いのだぞ?
元就:消え失せろ。
久秀:偉く怒らせてしまったようだな。
政宗:ちなみに、根拠はあるんだろうな?
久秀:こんきょ?
元就:平仮名で言うな。
久秀:ふむ……根拠か。強いて言うなら、似合いそうだから、か。
元就:………。
政宗:………。
久秀:君は宝に異常な執着を見せていた。是が非でも手に入れたい。
しかし、謎は解けそうにない。ならば、他の候補者を全て消そうと考えたのだ。
お市:まぁ……怖い……。
久秀:友人の背後に忍び寄り、油断だらけのその背目掛けて、
サディスティックな笑みを浮かべて凶器を振り下ろした!
ジ・エンドだ……(悦)
元就:ほぅ……ならば、今此処で再現して見せよう……(怒)
政宗:やめておけ、体力の無駄遣いだ。
光秀:なんだか、イマイチ面白味に欠けますねぇ……
久秀:そうかね?
光秀:この方、何か深刻な話を持ちかけようとしてる場面がありましたし……
犯人でもあまり驚きませんよ……
元就:おい。
久秀:ふむ。じゃあ犯人は伊達政宗、卿だ!
政宗:じゃあってなんだ、おい。
久秀:仲の良い友人達。対する自分はいつもひとりぼっち。ひとの幸せを見るくらいなら
いっそ壊してしまえと、凶悪に顔をゆがめ、日本刀を一舐めした後、
急所目掛けてずぶりと……!
政宗:誰がひとりぼっちだ!たたっ斬ってやる!
久秀:おっと、いかんな。犯人が暴れ出したぞ。妨害行為で逮捕だな。
政宗:あぁぁぁぁムカツク~~~~~っ!!!!第一!俺等は他の奴等がどうこうなった時、
てめぇと一緒に居ただろうが!
久秀:それはそうだが……だからといって、アリバイの無い使用人達が犯人では
当たり前すぎて面白くない。なんやかんやでトリック使って
卿たちがやったことにしておいた方が、視聴率があがるぞ?
政宗:五月蠅ぇぇぇ!!!!
元就:人を犯人に仕立て上げる貴様の方こそ犯人であろう!
久秀:犯人って言う方が犯人なのだぞ。
政宗:子供か!あぁぁぁもう面倒だ!全員怪しいなら、誰も信じねぇ。
最後に生き残った奴が権利者でイイじゃねぇか。
元就:ふん。分かり易くて良いではないか。
光秀:くくくく………アアアアアハハハハハハハァァァ!!!!!始まりますよ!血の宴が!
お市:全部……全部……市の所為………
久秀:おやおや。
――彼等は遠慮会釈無く戦い続け、最後に残ったのは……
久秀:ふむ……。
――誰も、居なかった。
彼等は争いながら屋敷の敷地の奥へ奥へと進み、
誰も、戻っては来なかった。
久秀:そして誰もいなくなった……か。
私はひとり、大広間に戻った。
戸を開いたとき、丁度時計の鐘が鳴り出した。
闇の中に、うっすらと見える祭壇。
その隣に並べられた、5つの無惨な姿の人形。
久秀:本当に七つ以上の首がならんでしまうとはな。………む?
その時、気配を感じた。
祭壇の近くにしゃがみ込んで、何やら蠢いている者が居る。
久秀:誰だ。
その者は、呼ぶや否や、玄関へ向けて掛けだした。
反射的に後を追おうとしたが、並の速さではない。
すぐに廊下へと見えなくなり……
政宗:そうはさせるかよ。
その者の前に、立ちふさがる人物があった。
不敵な笑みを浮かべて一歩踏み出すと、逃げようとしていた者は一歩後ずさる。
するとその者は踵を返し、窓へと向かった。
元就:生憎だが。
お市:出口はみんな……塞いでます……
光秀:さぁ……観念して切り刻まれてください………んふ。
部屋にいくつかある窓のそれぞれを、見知った顔が阻んでいた。
その者は観念したように、部屋の中央に立ちつくす。
久秀:なんだ。卿達は仲間割れを起こしたのではなかったのか。
政宗:Fakeだ。犯人に尻尾出させる為のな。
元就:あのような下らない理由で戦を起こす馬鹿などおらぬ。
久秀:そうか?随分と些細な理由で死闘を演じていることも多い気がするのだが……
彼等は咳払いをし、その者へと向き直る。
政宗:邪魔者が全員に居なくなったら、嫌でも出てくると踏んだのさ。
さぁ、その面、見せて貰うぜ。
そして彼は、その者の顔を覆う布を剥ぎ取った。
政宗:お前は……
そのまましばし、押し黙る。
顔をさらされたその者は、軽く肩をすくめて立ち上がった。
佐助:あ~あ、はめられた。降参ですっと。やれやれ……。
元就:まさか……貴様が、真田も?
くすりと笑みを浮かべ、彼は言った。
佐助:そうだよ。旦那を殺めたのは、俺様♪
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