――企画部屋より転載。
佐助分。阿呆仕様。
――だから、行くなと言ったのに
地に突き立った、紅蓮の槍。
変色した柄は、明々と光る夕日の色すら飲み込んで、黒く。
佐助:ほんと、馬鹿だよねぇ。
人の言うことを聞かないから。
ほら、こんな棒きれみたいな姿になって。
佐助:呆れて何にも言えないわ。
見上げた空は、夕日の紅を吸い込んで、
憎らしいほどに美しかった。
――
佐助:ちゃんと手入れしなきゃ、どんな良い武具だって錆びるって言ったでしょ!
折角の二槍が、単なる棒になってもいいの!?
部屋の隅で落ち込んでいる主に向かって怒鳴ってみるが、
相変わらず膝を抱えたまま、「すまぬ」と力なく呟くのみだ。
何故、自分がカリカリ錆を落としてやっているのだろう。忍なのに。
それを思うと夕日を見ただけで泣けてくるので、敢えて考えないことにする。
しかし、普段は戦(というより喧嘩やじゃれ合いに近いが)の後でも
武具の手入れは基本的に自力でしていた。今回に限って、何故?
一人ぼんやり考えていると、主は「やる気がしなくなってしまったのだ…」と呟いた。
その理由を聞き、自分が「叱る」べき相手は、他にいると、知った。
――
政宗:何の用だ。
振り返ることすらせずに、低く呟く。
戦装束はまだ解いて居らず、刃も未だその腰にある。それに手を掛ける素振りはない。
政宗:幸村がうちに忘れ物でもしたん………What!?
とりあえず苦無をぶん投げてやると、竜は面食らって尻餅をつく。
思わずくすりと笑みが漏れた。相手は何が可笑しいとでも言いたげに、眉を顰める。
佐助:ねぇ、竜の旦那。
顔を上げ、笑みを浮かべたまま、見据える。
佐助:アンタうちの子に、なんつー物みせてくれてんの?
足下に叩き付けたのは、一つの、書物。
――週刊・戦国HARENCHI
政宗:Ah……?何だこりゃ?
佐助:とぼけないでよ。政宗殿と一騎打ちだ~って例の如く出掛けて、帰ってきて、
荷物整理して、此奴を見つけて、ショックのあまり塞ぎ込んじゃったんだよ!?
アンタが旦那の荷物に忍ばせたんだろ。悪戯にしちゃ、タチが悪いんじゃないの?
政宗:知らねぇよ。大体アイツも17だろ?別にこんな雑誌の一つや二つ、
持ってたっておかしくねぇだろうが。
佐助:冗談じゃない!
まったくもって、許せない。
純朴なうちの子に、こんないかがわしい世界を教えるなど以ての外だ。
見せてはいけない。そんなものも、あんなものも。
こんなもの等、到底教えられるはずがない。
――そうしなければ、きっと
政宗:つーか所々ページの端が折ってあるんだが……お前、コレ読んだろ?
佐助:俺様のことはいーの!さぁ竜の旦那、この罪、贖って貰おうか!
漸く此方を見上げたその顔には、諦めたような表情が浮かんでいる。
政宗:贖うったって……「助平な物見せてすいませんでした」とでも言うのか?
お前こそ、オカンの本懐に従って、アイツに少しは色恋ってもんを教えてやれよ。
はっきり言って、このままじゃ生きていけねぇぜ?
佐助:うっ……結構当を得てる……。アンタに言われると、すっごい不愉快だけど。
雑誌を持ち上げ、手甲でそのページを捲る。
もの凄い宣伝文句が目に入り、咳払いして其れを閉じる。
佐助:旦那の年齢を考えれば、確かに思考回路がちょっと幼いよ。
時代背景を考えるなら尚のこと、嫁が居たってなんらおかしくない歳だし。
そんなこと俺だって、百も承知だよ。
師を絶対と信じ、己は母と信じられ……、
自らの信念のみに突き進んで行く中で、
主がそれ以外のことに全く無頓着なのは、
特に色恋沙汰及び女子の色香に過剰な苦手反応を示すのは、
甚だ悩みの種であるということも。
佐助:心配されることもあるし、こーいうのが必要かもって思ったことも、
無い訳じゃないよ。
破廉恥。そんな言葉で片付けられないような、何かが其処にあるのだということも。
佐助:だから……
だから、其れに、手を伸ばした。主のために、必要かどうか見極めるために。
政宗:てめぇが見たかっただけだろ。
佐助:でも、竜の旦那!
政宗:聞こえないふりしやがったな。
――やっぱりうちの子には、早すぎます。
政宗:黙って聞いてりゃ言いたい放題。だから俺は知らねぇって……
……あ?そういえば、前の日に元親が来て……
――なぁ、お前は、どれが一番強いと思う?
元親:やっぱガン○ムは本命としてもよぉ、俺としてはマジ○ガーも捨て難くてなぁ……
政宗:知らねぇよ!雑誌読みながら菓子を貪って……人ん家で寛ぎすぎだお前は。
食べかすを落とすんじゃねぇ!
元親:んだよ、細けぇ奴だな。細かい男はモテねぇぞ。
政宗:だらしねぇオタクの方がモテねぇよ。なんだよ、この雑誌の山は。
元親:アニ○ージュ、ファ○通、その他諸々の雑誌だ。部屋に入りきらなくなってよぉ。
何冊か置いていくから、お前も読んで良いぜ。
政宗:読まねぇよ!入りきらないなら捨てろよ!
元親:本ってなんか捨てがたいんだよ。元就ん家に持って行ったら、
問答無用で燃やされたしよぉ……一時避難場所だ。頼む!置かせてくれ~!
政宗:……ったく。無くなっても文句言うなよ。
――恩に着るぜ♪
幸村:政宗殿!今宵の勝負は此までといたそう!
政宗:Hah?今から本番じゃねぇのか?自分が優勢だからって、勝ち逃げは許さねぇぜ。
幸村:でも……そろそろポケ○ンの時間でござるよ?
政宗:俺との勝負はアニメ以下か!……まぁ、イイ。小十郎も小言を言い出す頃だ。
幸村:忝ない。……時に政宗殿、先日貸してくれると言うていた書物を
お頼みしてもよろしいか?
政宗:ああ、あの食べ歩きの雑誌か。そこいらに重なってるから、適当に探して持ってけ。
――ありがたい!これでござるな!
新しい「しょっぴんぐもぉる」が出来たのだ。其処には甘味屋が沢山入っておる。
端から端まで、全て食べ尽くしてやる!
悪戯を企んでいるときのような表情で。期待と希望に溢れた目で。
ろくに確認もしないで、手近な雑誌をぐいぐいと荷物に突っ込み、
そのまま帰って行った記憶がある。
政宗:ってことは……これ、アイツの自己責任じゃねぇのか?
佐助:何を回想に浸ってるんだか知らないけど、
気付けば大手裏剣を掲げている。
笑顔に怒りのオーラを纏った、何やら薄ら寒い物を感じる表情だった。
佐助:ねぇ、竜の旦那。
知らなかった、別に見てもイイなどと言い訳を並べたところで、
主を泣かせる原因を作ったのは、此奴であることに違いはない。
佐助:「死してその罪贖うべし」って言葉……知ってる?
そう呟くと、其れまで黙っていた竜が、つつと冷や汗を流した。
制すように手を翳し、じりじりと後退る。
政宗:ま、待て。話を聞け。多分俺、全然悪くねぇ。
視線を向けると、なんとも必死な表情が其処にあった。
何やら説明しているが、全力で無視しておく。
政宗:だから其奴は元親の……って聞く耳持たねぇってか。
佐助:さて、まずは元から断たないとねぇ。
不意に、竜の背後が明々と照らし出された。
それは、己が幾度も魅入られた、炎の灯。
竜は振り返って目を見張る。目の前の光景が、信じられぬとでも言うように。
何を、取り乱しているのだろう。たかが――雑誌全部を燃やしたくらいで。
――炎はこんなにも「綺麗」なのに。
政宗:お、俺の所為じゃねぇぞ元親……置いていくてめぇが悪いんだからな。
佐助:こんな物は、まだ、必要ないんだよ……
週刊も、月刊も。
当面は見ちゃいけません。
佐助:うちの子は、まだ……
――ディズ○ーアニメで、充分。
Powered by "Samurai Factory"