・こっちはアニキ視点。
・ナリ様キャラ崩壊注意です。
「何がどうしてこうなったのか……俺には今ひとつ分からねぇんだが……」
「一分の狂いもなくアンタの所為でしょうがぁあああああああああああ~!!!!!!」
アイツの部下である兵士共に一斉に耳元で泣かれ、
思わず「すいません……」と声が漏れた。
「いや……まさかこんな事になるとはな……」
さざ波を見やって、ほうと溜息を付く。
其れを呑気と見なしたか、兵士達がさらにいきり立った。
「知らなかったで済む問題じゃありません!」
「返してくださいよ!私たちの元就様を!」
「元就様ぁぁぁ!!!!ああぁぁん~!!!」
「いや、『ああん』つわれてもよぉ……」
頬を掻きながら困り果てていると、自分の部下達が色めきだった。
「あンだとコルァ?なんでもアニキの所為にしてんじゃねぇぞオルァ。」
「ンなもん、てめぇら等の兄貴分の自己責任だろうがっ!」
「止めろ、お前等。」
雲行きが怪しくなってきたので、自分の部下達を控えさせる。
「今は言い争ってる場合じゃねぇ。兎に角、アレをどうにかしねぇとな……」
言いながら、月を仰いだ。見事に満ちた、青い月。
上等の酒の香りが、ふわりと漂った。
――事は、数時前に遡る。
「今日の土産は桃マンか。さっさと寄越せ。」
「馬ぁ鹿、がっつくんじゃねぇよ!」
いきなりかぶりつこうとしてきた頭を片手で押さえ、手にした果実を掲げてみせる。
「見て分からねぇのか?桃マンじゃなくて、桃だよ桃。」
「ふん、本物の方か。それはそれで悪くない。さっさと剥け。」
言って食台をぺしぺしと叩く。
「俺はどっかの忍か……。いいか?聞いて驚けよ。こいつぁただの桃じゃねぇ。」
「我は産地など何処でも言いタイプの人間だ。食えればよい。さっさと剥け。」
「だぁから、ちったぁ食欲を横に置いておけねぇのかてめぇは!
こいつぁ桃と言っても、ただ食すにはあまりに勿体ねぇ代物だ。
何しろ……仙桃なんだからよぉ!」
「せんとう?なんだそれは?」
「へへっ、漸く食いついて来やがったな。仙桃つうのは、その名の通り仙人の桃よ。
真水は愚か、井戸水・泥水・海水まで酒に変えるっつう、とんでもねぇ秘宝だ。」
「酒……とな?」
「なんか怪しげな爺さんからお宝買いしたんだけどな、面白ぇだろ♪
そういやお前ん家に、手頃な池があったなと思ってよぉ。
アレなら、こいつ一つで十分酒に変えられる。俺ぁいっぺん酒の中で
泳いでみたかったのよぉ!」
「待て阿呆。」
腕まくりしながら庭へ降りると、その腕が掴まれた。
「なんだよ。お前だって酒は嫌いじゃねぇだろ?今更下戸とか言わねぇよなぁ。」
「勝手に庭を酒の海にされてたまるか。後のことも考えろ。」
「だぁいじょうぶだって!こいつぁ一晩たてば水に戻る。
身体の中に入った分も同じだから、女子供でも飲めるって寸法よ。」
「何……?」
「な?おまけに今宵は満月ときた。たまには派手な月見酒ってのも、悪くねぇだろ?」
「む……。」
そう、単なるいつもより派手な呑み……だった筈なのだが……
「で?どうするのだ?」
「知らね。適当に投げ込みゃイイんじゃねぇか?」
「いい加減な……」
「ほらよっと。」
池に放り込まれた桃は、少し沈んだ後、ぷかりと浮かび上がった。
そのまま波に揺られ、ぷかぷかと漂う。無言の時が流れた。
「何も……起きぬではないか。」
「おぉ?おっかし~なぁ……」
「貴様、騙されたのではないか?」
「だって、白髭に白い着物の爺さんだぜ?間違いなく仙人だろ、あれは。」
「………。貴様を信じた我が愚かであった……」
「あ!おい、ちょっと待てよ!」
その時、ふわりと漂う香があった。
「これは……」
「紛れもなく……」
「酒だぁあああああああああああああ!!!!!」
止める間もなく、部下達が一斉に池に飛び込んだ。
どぶんどぶんと水飛沫……否、酒飛沫が上がる。
「コルァ!狡いぞ野郎共!」
「アニキ!すっげぇっす!これ、本当に全部酒になってますぜ!」
「うぉぉおお!!!超旨ぇええええ!!!!」
「もう俺、泳ぎながら呑んじゃう!」
十数人の部下達は、酒の波に溺れんばかりに驚喜した。
負けじと飛び込むと、なんとも上物の酒が口中を満たし、頬がほんのりと熱くなる。
「くああぁっ……最高!」
頭を振って飛沫を飛ばす。
それすら全て酒というのだから、もうここは天上以外の何でもない。
「お……おおお俺我慢できない!」
「わ、私も!」
アイツの部下達まで、ついに酒の池に飛び込んだ。
「あ、貴様等!我の許可無く……」
「いいからお前も来い!」
腕を引っ張ってやると、どぼんと盛大な飛沫と共に、頭から転げ落ちてきた。
「貴っ様……」
すぐに食って掛かってきたが、その手がぴたと止まる。
ひくっ……
小さな息と共に、頬がぼんやりと紅潮した。
「旨いか?」
「………悪くない。」
「おっしゃあ!野郎共、宴だぁあああああああああっ!!!!」
その場にいた全員が、歓声を上げた。
あるいは泳ぎ、あるいはひたすらに呑み、あるいは踊り狂い、あるいは笑い声を上げた。
気付けば侍女や小姓の子どもたちまで池に飛び込み、初めての酒を楽しんでいた。
そこかしこで裸踊りやら、きわどい遊びの類が始まり、
狂乱の時が過ぎていった。
――どれ程たったろうか。
「あぁ……?」
酒の池に腰まで浸かり、飛び石の一つに頭を預けて眠っていたようだ。
周囲を見渡すと、未だに飲んでいるものはごく僅かで、
殆どが気持ちよさそうに眠っている。
踊り狂っていた緑の影も、例に漏れず、萌黄の着物を酒に浸したまま眠り転けていた。
流石は仙人の酒、文字通り浴びるほど呑んだにも関わらず、頭痛を起こすこともなく、
ぼんやりとした心地よさが残っている。
空にはまだ丸い月が煌々と輝き、青い光を落としていた。
「あ~……呑んだ騒いだ。そろそろ帰るか。おい、元就、そろそろ起きろ。」
「……・」
「元就、おら、酒とは言え、これ以上浸かって寝てたら冷えんぞ。」
「………。」
ぱちりと、目が開いた。
「起きたか。随分呑んだみてぇだな。そろそろ野郎共も起こして……」
「聞こえる。」
「…………あ?」
さぶりと、立ち上がる。その目に宿るのは、確かな意志。
今し方目を覚ましたばかりとは思えぬ輝きが、そこにはっきり見て取れた。
「聞こえるのだ、皆の声が。」
「声って……」
起きている者は数人、それも黙々と酒を飲んでいた。騒いでいる者は一人もいない。
庭に聞こえる音と言えば、風と虫の音、酒の池の水音くらいのもの。
しかしその目は空を見つめ、切羽詰まった声でもう一度言った。
「聞こえるのだ。………行かなければ。」
「行くって、どこに?」
「我の愛が……必要とされている!」
「………。」
一縷の迷いもない言葉に、とりあえず絶句してみる。
高らかなその声に、部下達も目を覚ました。何事かと眠い目を擦る。
「元就様ぁ?どこか行くんすかぁ?」
「そうだ。我は行かねばならぬ。」
「へぇ?どこに?」
「言ったろう。愛の足りない場所だ。
我は愛のために戦う戦士、ソーラーサンデーなのだから!」
…………。
庭の木々や、さざ波さえも沈黙した。
「ど、どうしちゃったんすか?」
「どうもこうもあるものか。我は気付いてしまったのだ、我の指名に!
地球の平和を守るため、みんなの笑顔のため!
ソーラーザビーやソーラーチェストと共に、愛の力で悪を挫く!
いざ、戦いの舞台へ!とぅ!」
「ちょ、も、元就様ぁ!?」
友はそのまま、夜の闇に走り消えた。
そして、冒頭に返る。
「元就様に……何か変な物食べさせたんじゃないですか?」
「馬鹿言うな。酒以外呑ませてねぇよ。大体、お前等だって呑んでるだろうが。」
「はぁ……まぁ……」
部下達は恐縮し、再び考え込む。
「じゃあ、アレはどういうことなんです?」
「酔ってんだろ?普通に。」
「アレの何処が普通なんですか!」
「いや……まぁ……確かに。大体アイツ、そんなに酒に弱かったか?」
部下達は首をかしげ、互いに顔を見合わせてから言った。
「どちらかと言えば甘党ですから強くはありませんが、弱いと言うほどでもありません。」
「ただこのお酒は随分と甘いようでしたので、いつもより多く呑まれたのかも……」
「成る程な……」
慣れぬ量を注ぎ込んだ所為で、いろいろな箍が外れたのかも知れぬ。
「アニキ~!大変です~!」
「どうした?」
自分の部下達が、走ってきた。
「いや、池の中に浮かんでた仙桃を拾ってきたんですがね……見てくださいよ。」
手渡されたそれには………くっきりと囓られた跡があった。
「……あの野郎。」
食欲が働いて、こっそり直接囓ったのだ、酒の大元を。
「仙人の酒だ、効能も普通の酒と違うのかもしれねぇな。
とどのつまり、アイツぁ今、究極のへべれけ状態ってこった。」
「そんな……元就様ぁ……」
部下達が絶望的な顔をする。
どうもこの部下達は物事を悲観的に考える癖があるようだが、
酔っぱらいが暴れているくらい、大した問題でも無かろう。
「大問題です!」
部下達は、声を揃えて言った。
「元就様が……みんなの笑顔のためだなんて……」
「私たちを見て『みんな』だなんて呼んじゃいけないんすよ!」
「俺達は捨て駒と呼ばれてなんぼ!あんな優しい目をされても全然……なんつうか……」
「よくねぇ!あんなの、元就様じゃねぇ!」
………。
よく分からないが、特有の人気を博しているようだ。
「……分かった。理由はどうあれ、呑ましたのは俺だ。酔い冷まさせて、連れて帰る。」
「えぇ~アニキ、もっと宴会やりやしょうよ~」
部下達は不満なようだが、蒔いた種にはケリを付けるべきである。
「うぅ……そこまでいうなら止めやせんけど、何処行ったか分かるんすか?」
言動から察するに、またあの妙な南蛮人の所とも思ったが、それにしては方向が違う。
走り去った先に居て、愛だの何だのという話でぴんとくる者。
「………前田か?」
脳天気な風来坊の顔が、脳裏に浮かんだ。
――果たして………………………そこに居た。
「何してんだ……お前?」
色とりどりのわっかを繋げた飾りを、せっせと装着している人物に向かい、呆然と呟く。
「え?なんか元就が祭りを開くって言うからさぁ♪」
前田の風来坊は悪意の欠片もない笑顔を見せ、再び飾り付けを始める。
「祭りって……なんの?」
「机の両側に男女がそれぞれ並んで、ご氏名の相手の所に光の線が伸びていくゲームとか、
くじ引きで王様を決めて命令に従うゲームとか……ルーレット回して出た色の所に
手をついて遊ぶゲームとか。な?面白そうだろ♪」
「………。」
何処で覚えたのだろう、そんなもの。
「お前の部屋にあった漫画や小説を参考にさせて貰ったのだ。」
はっとして振り向けば、即興で作ったのであろう安っぽい塔のてっぺんに、
怪しく佇む緑の影がある。背景となった壁には、ぴかぴかと電飾が光っていた。
「おい元就!馬鹿なことしてねぇで降りてこい!」
「何が馬鹿なことか。これぞ戦……愛のための戦よ!」
「いいねぇいいねぇ♪俺、愛とかそういう単語に弱くてさぁ~。」
「お前は黙ぁってっろ!」
風来坊はひょいと肩をすくめ、飾り付けに戻っていった。
「知識の出所が俺とは言え……フィーリングカップルだのツイスターゲームだの、
そんな昭和の破廉恥遊びに参加させられっか!正気に戻って目ぇ覚ませ!」
「なんの、我はこれまでに無く正気ぞ。愛の力で導かれて居るのだ。
愛の足りぬ輩に愛を振りまく機会を与える、それが我の指名!
有り難く参加するが良い。楽しいぞ。」
「へ……お、俺も?」
普段邪険に扱われるのが当然なので、にこやかに誘われると思わず頬が弛んだ。
「罰ゲームも用意したのだ。」
「へぇ……。興味本位で聞くが……どんなのだ?」
どこからともなく長い紐を取り出し、片足を上げたポーズでくるくると回転させた。
「なんだ……それは?」
「サンデー・ラブミーチェーンだ。」
「仕舞え!今すぐその各方面からお叱りを受けそうな物体を仕舞え!」
怒鳴り声に反応してか、少し肩をすくめた。
しかし相変わらず「ラブミーチェーン」とやらは回転させながら、
不満そうに口を尖らせて続けた。
「まぁ確かに、実のところチェーンではなくリボンであるのは認めよう。
しかし、フラフープの次はリボン。悪くない流れであろう?3の武器は、これで参る。」
「いい加減な情報を吐くな。大体それで罰ゲームって、何するんだよ?」
「……………縛る。」
「今すぐこの場でビーナスに土下座しろぉおおおおおおおおおおおお!!!!!」
そんな変態約1名が大喜びしそうな罰ゲーム、断じて認めるわけにはいかない。
「一体何が不満なのだ?」
困ったというように、首をかしげる。
我が儘な子供を諭すような表情。長い付き合いだが、そんな顔を見るのは初めてだった。
「なんもかも全部だよ!」
「伊達や真田をはじめ、伴侶の居ない輩は粗方を呼んである。
皆で楽しく愛の戦と参ろうではないか。」
何が楽しくだ。少なくとも今言ったうちの片方は、確実に泣いて嫌がる。
「そうなのか?お前も……嫌なのか?」
「……………は?………俺?」
自分を指さすと、こっくりと頷く。
「我は愛の力を崇めておる。お前もそうではないのか?昨日も一昨日も
愛にまつわるゲームをしていたではないか。これで4人目攻略だと。」
「お前……俺がメモリあってる最中を覗いてたのか……?」
「うむ。実に楽しそうであった。」
………。いや、なんというか、違うのだ。
たまたま新作が出たばかりだったので、野郎共とどっちが先に全キャラ落とせるかの
勝負をしていただけで、いつもそんなゲームばかりしているわけではないのだ。本当だ。
「だから……喜んで貰えると……そう……思ったのだが……」
「………。」
違う。
「間違って………いたのか?」
違う。そうじゃない。
「あ~、駄目じゃん元親~。友達を悲しませるような奴ぁ、女の子にももてないぞ~♪」
黙れ、そこのフリーター。
「あ、ひっど……」
風来坊は不満げに頬を膨らませつつも、顔を引っ込ませた。
じっと見上げていた目は、その間に何か意志を固めたらしかった。
「心配はいらぬ。きっとお前も楽しく思うはずだ。さぁ、始めるぞ!愛の、戦を!」
「ちょっと、待っ………!」
「日輪にかわって、粛清ぞぉおおお!」
緑の影が、跳躍した。同時に電飾が煌びやかに色付く。
浮かび上がった「うぇるかむ」の文字。間もなく参加者達が、ここに押し寄せるのだ。
「ち………」
そして始まるのは、狂乱の宴。
用意されたゲームの趣向、集まる連中のキャラ濃度を考えれば、
前の酒池以上の混乱が起こるのは必至。文字通りの戦となろう。
「ち………違うって言ってんだろうがぁあああああああああああ!!!!!」
ぴたりと、止まった。その顔が、不安げに歪む。
「何を……怒っておるのだ?」
「怒ってねぇ。」
「では……何故止める?やはり……迷惑なのか?」
「そうじゃねぇ。ただ俺は、違うって言ってんだ。」
「やはり『おしおき』の方が王道であろうか?」
「決め台詞の話じゃねぇ!お前自体の事を言ってんだよ!」
不思議そうに、目が瞬く。そもそも、こんな反応自体が間違っているのだ。
「楽しんで貰えるとか、一緒にやろうとか、そんなことを言うのはお前じゃあねぇ。
死ね・散れ・勝手にしろ。俺に掛ける言葉はそんなもの!興味なさ気にしておいて、
不平たらたら言いながら後から乗ってくる、それがお前だ!」
「………。」
再び、目が瞬く。
「解せぬのだが……お前は我に邪険にされた方が良いというのか?」
「んなことは言ってねぇ。」
「では我の心遣いなど、無用だというのか。」
「そうも言ってねぇ。」
「ならば共に宴を楽しもうというのに何の問題がある?」
「いや、宴の内容とかパクリとか問題は山積みだが……それ以前に!
文字通り『我を無くした』ダチをそのままにしておけるかってんだ!」
振り翳すのは、酔い覚ましドリンク・シャッキリちゃんα。
「な……何を……!」
そして、不安げなその顔に、無理矢理ドリンクをぶっかけた。
――
「…………?」
「よぉ……お目覚めか?」
「………。」
「あだっ!……いきなり殴る奴があるか!」
「目覚めて早々貴様の顔とは……気分が悪い。」
「この野郎っ……。お前が趣旨も説明しないで呼んだ奴等に中止の連絡したり、
この場片付けたりすんのに、どれだけ苦労したと思ってんだ!」
「………何の話だ?」
悪びれる様子もなく、目覚めの伸びをしてすたすたと歩き出す。
「………。」
が、すぐに立ち止まった。
「時に元親。」
「あ?」
「何故我は………前田の家におるのだ?」
「…………。」
どっと、溜息が漏れる。なんと割に合わない役回りだろう。
「あのまんまの方が良かったかい?」
気付けば前田が、意味ありげな笑みを浮かべながら、傍らに腰を下ろしている。
「冗談じゃねぇよ。あんな戦士、俺は認めねぇ。戦士ってのはもっとこう……
まず美脚でだな、可愛らしい髪型で、スカートを……」
「そうじゃなくて。なんで変わっちまってたのかは知らないけど、
優しい方が良かったじゃないのかい?特に、仲の良いアンタとしてはさ。」
そう思うなら、何故お前も宴の支度にわざと手間取った。
相手に合わせたフリをして、様子見して止めようとしてたんじゃないのか。
そう言うと、風来坊は「ばれてたか」と肩をすくめた。
「なんかおかしいな~とは思ったから、正気に戻ったあと、
気の毒なことにならないように思ってね。……ってか、話逸らすなよ。」
逸らしてねぇ。俺は誤魔化すような真似はしねぇんだよ。
「へぇ、じゃあどうなんだよ?」
………決まっている。
部下共にせよ、友垣にせよ、願うことはただ一つ。
あるがままに、奔放に。何かをしでかすようなら、多少やり方が荒くとも止めてやるから。
誰ぞの機嫌を伺い、何かに怯えとらわれていた頃になど戻ってはならない。
自由に、気ままにあれば良い。
「やっぱ俺、アンタとは気が合いそうな気がするなぁ~。」
「違ぇねぇ。ただ俺とアンタの違いは、責任感つうとこだな。」
「へぇ……俺は物言いの柔らかさだと思うけどねぇ~。」
風来坊は不満げに眉を寄せた後、からからと笑って部屋を去った。
「何をこそこそ話していたのだ?」
元々細い目が、さらに気むずかしげに細くなる。
「何でもねぇよ。帰るぞ、ソーラー。」
「誰がソーラーだ。焦がすぞ貴様。」
「勝手にしろよ、この酔っぱらい。」
月はとうに見えなくなり、山の彼方には朝日が煌々と輝いていた。
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