――うちの五本槍は、すっかり浅井家に住み着いてますな…
長政:暇だ。
風の槍:はい?
長政:暇になってしまった。仕事が全て終わってしまったのだ。
風の槍:良かったじゃないですか。明日は一日、ゆっくりと休息なされば。
長政:馬鹿なことを言うな。暇など悪だ!生きとし生けるもの、常に正義のため
戦い続けることが義務。まして私は浅井家を守らねばならぬ立場にある人間だ。
それをだらだらと休むなど……
風の槍:長政様ぁ(溜息)
長政:な、なんだ、その呆れかえった眼差しは!
風の槍:長政様も、バカンスにバカンス出来ない、典型的日本人気質なんですね~……
長政:何が言いたい?
風の槍:いいですか、長政様。いい男というのは、休日も有意義に過ごせる人のことを
言うんです。ただがむしゃらに仕事ばかりしていては、家庭が壊れます。
家族サービスって言葉、知ってますか?たまには家のことも顧みてあげないと、
ひい様に嫌われちゃいますよ?
長政:む……。貴様、意外と口達者なのだな……。
風の槍:兎に角、明日はしっかり休んで、ひい様を安心させてあげてください。
最近根を詰めすぎですよ?報告書、ここに置いていきますから。
長政:休日……。
――翌日。
長政:休め等と言われても………何をすればいいか分からん。
とりあえず、瞑想でもしつつ、正義について考えるとしよう。………。
――………ぷひょぉ~
長政:………。
――……ぴ……ぷぴぃ~
長政:………。
――……ひょろろろ……ぱひょぉ~
長政:………。さっきから何をしておるのだ、市……(呆)
お市:あ……気付かれちゃった……
長政:背後でひょろひょろ笛を吹かれて気付かぬ者がいるか。何がしたいのだ、お前は。
お市:これ……すごいんだよ……?中に…水が入ってて…鳥の声がする……笛なの……。
聞いてて……長政様……。(ぱ……ぱひょろぉ~……)
長政:鳥というより、蛇でも踊り出しそうな気がするのだが……。
そもそも何故突然笛など吹き出す?
お市:長政様……疲れて居るんでしょう?……寝てる……みたいだったから……
市も……お手伝い……しようと…思って。この笛……りらくぜえしょん……?の
効果があるんだよって……前田様が……
長政:余計なことを吹き込みおって、あの風来坊めが……。……市。
お市:はい。
長政:私は瞑想をしているのだ。笛はいいから、静かにしていてくれ。
お市:………。……ごめんなさい。
長政:別に謝る必要はない。ただ黙ってそこにいれば、それで良いのだ。
お市:………はい。
長政:……。
お市:………。(招)
炎の槍:……?
お市:………。(耳打)
炎の槍:……!
お市:………。(耳打)
炎の槍:合点承知です!
お市:……っ!!!!(しぃ~っ!)
炎の槍:……す、すいません。
お市:……?
炎の槍:……!(了解)
長政:何をこそこそ話して居るんだ貴様等は。
炎の槍:うわ、ばれた!!!
お市:長政様!
長政:声を殺していようと、なんというか……五月蠅いほどに気配が濃いのだ。
一体何を企んでいる。
炎の槍:いえ、池の撤去の話ですよ。
長政:池の……撤去?庭の池のことか?
炎の槍:はい。なんでもひい様のお話では、長政様は静寂をお好みなので、
音を出す物は一切排除して欲しいとか。任せてください!
今日中にがっつり埋め立てて、鹿威しとかも叩き壊しますんで!
水音一つ、立てさせやしませんよ!
お市:あと……猫とかも……入ってくるといけないから……ペットボトルに……
お水を入れたやつを……一杯……立てておいて……
長政:何故そう極端なのだ……(呆)もう良い。お前は下がれ。
炎の槍:へ?でも池……
長政:先祖から受け継いだ屋敷の庭を破壊されてたまるか!良いからさっさと行け!
炎の槍:し、失礼しました~!(逃)
長政:……(溜息)
お市:長政様……ごめんなさい……。市……邪魔しないように……しようと……
長政:黙って居るだけで良いと言ったであろう。
お市:ごめんなさい……ごめんなさい……
長政:一々謝るな。……しかし、この庭も随分雑然としてきたな。
お市:最近……あんまり……お手入れしていないから……
長政:まったく……私が少々仕事で目を離すと、直ぐに手を抜く悪ばかりだ。
雑草だらけではないか。(降)
お市:長政様……?
長政:手入れをするぞ、手伝え、市。
お市:………。はい……(嬉)
長政:削除削除削除ぉ~っ!!!!
お市:長政様……凄いね。芝刈り機……みたい……。
長政:喜ぶべきなのか……?
お市:市も……頑張る。(ぷち)ひとぉつ………(ぶち)ふたぁつ……
(ぶちり)みっつ……(ぷち)沢山の……草を……命を……
摘み取って……(ぷちり)……ふふふ……
長政:……。もう少し穏便に草むしりできんか、市……。
お市:……?
長政:ここは私に任せて、お前は箒を持ってこい。裏手にあったと思う。
屋敷内を通って行った方が早いぞ。
お市:……はい。………。(止)
長政:……?どうした。軒先などに立ち止まっていないで、さっさと……
お市:うん……でも……。(見上)
長政:?
お市:雨が……降りそうだなと……思って。
――どざぁぁぁぁぁ………
長政:………。何故言った瞬間に降るのだ……。
お市:長政様……びしょびしょ……。市……どうしたら………。
長政:(嚔)ええぃ……酷い目に合った……。
お市:長政様……ちゃんと……拭かないと……。
長政:この程度、放っておけば乾く。
お市:………。長政様。
長政:何だ?
お市:濡れた犬って……匂い……強烈………だよね。
長政:何が言いたい……。
お市:市はただ……濡れた儘じゃ……風邪を引いてしまうから……
長政:……。風呂に入ってくる。
お市:……はい。
長政:戻ったぞ、市。
お市:長政様……!早いね……。
長政:昼間から長風呂などしていられるか。それより……何をしておるのだ?
氷の槍:百人一首ですよ、百人一首。折角の休日も、雨降りじゃ暇ですし。
闇の槍:もうちょっと待って下さい。並べ終わりますから。
雷の槍:絶対負けないっすよ~?
お市:長政様……ここ、座って。
長政:私の参加は決定事項なのか……?
氷の槍:んじゃ、いきますよ~。
雷の槍:うっしゃあ!いつでも来い!
闇の槍:容赦しませんよ。
お市:長政様……頑張ろう……ね。
長政:う、うむ……。
氷の槍:では。「このたびは~」
お市:はい……。
雷の槍:ひい様、早っ!
お市:ふふふ……とれたよ……長政様。
長政:ぬぅ……市、お前、暗記しているのか?
お市:ううん……全部は知らない。たまたま、知ってただけ。
長政:そ、そうか……。
氷の槍:次行きますよ~。「あさぼらけ~あり……」
闇の槍:もらったぁ!
お市:とられちゃった……
雷の槍:ふん!次は俺が取る!
長政:……。
氷の槍:次~!「むら……」
雷の槍:とったぜぃ!は~い、宣言通り~。
闇の槍:お前、早すぎだろ……なんで分かるんだよ!
雷の槍:「む」で始まるのは一つしかないんだよ♪
氷の槍:「やえむぐら~」
お市:はい……。
闇の槍:あ!ひい様狡いっすよ~!
お市:ふふふ……油断……大敵……。もう……次の戦いは……始まっている……のよ?
雷の槍:次は譲りませんからね~(笑)
長政:………。
闇の槍:勝負も佳境に入ってきたな~。何枚とった?
雷の槍:あ~……14。
闇の槍:弱っ。俺29~。
お市:市は……三十五枚………。
雷の槍:ひい様強すぎなんすよ~。あ、そう言えば長政様は……
氷の槍:馬鹿っ!(塞)
雷の槍:もがっ……!?
長政:………。
お市:長政様……元気出して……?まだ……勝負はこれからよ……?
たとえ……一枚もとれなくても……まだ……札はこんなに……
長政:五月蠅い黙れ!上の句の段階でばしばし取りおって……。
初心者に気も使えぬ輩を、誠の正義と呼べるのか!?
貴様等は、己の行動を省みるべきだ!
氷の槍:滅茶苦茶不機嫌だな……。
お市:ごめんなさい……長政様を最弱にしてしまって……ごめんなさい……。
市……長政様が……こんなに弱いと……知らなくて……。
無知は……悪……だもの……。ごめんなさい……。
闇の槍:ひ、ひい様……長政様が立ち直れないほど落ち込んでますよ……?(汗)
お市:市……どうしたら……。………そうだ。おいしいもの……。
おいしいものを食べたら……長政様もきっと……元気になってくれる……よね?
市……持ってくる。(走)
氷の槍:ほ、ほら、長政様!ひい様が何か持ってきてくれるみたいですよ!?
闇の槍:なんですかね~?お手製のお菓子とかですかね~?
いや~、羨ましい奥さんだぁ~!
長政:………。
雷の槍:あ、ちょっとにやけた。
氷の槍:単純な人で良かった……。
お市:長政様……持ってきた……よ?市が作った……おしるこ。
闇の槍:これ……おしるこ……ですか?
お市:独眼竜がね……ちょこれいとを……くれたの……。甘くて……美味しいから……
おしるこにしたら……もっと美味しいと思って………
氷の槍:ま、まぜたんですか……?あんこと……?
雷の槍:ひい様、味見、しました……?
お市:ううん……。長政様に……最初に……食べて欲しくて……。
長政様……これ……。………あっ!(転)
槍's:ひい様!
長政:(ざびゃぁぁぁ……ぽた……ぽた……ぽた……)………。
闇の槍:あ……。
雷の槍:げ。
氷の槍:うわぁ~……頭から浴びたぞ……。
お市:嗚呼……ちょこ長政様になってしまった……。これも市の所為……。
ごめんなさい……ごめんなさい……
長政:………。
氷の槍:な、長政様?ひい様も……悪気があった訳じゃないですし……
雷の槍:ここは一つ穏便に……ね?
長政:………部屋に戻る。
お市:………え。
長政:部屋に戻って、書でも読むとする。だから……一切誰も近づくんじゃない!!!!!
槍's:……っ!!!!!
長政:良いな。(去)
闇の槍:………。や、やっぱ……怒ってる……のか?
雷の槍:怖ぇ~……
お市:長政様……。
長政:どいつもこいつも……何故私の邪魔ばかりするのだ。休日を心静かに過ごそうと
しているというのに……何故こんな香ばしい匂いをさせなければならぬ(苛苛苛…)
……(溜息)。一人で過ごすのが、一番というものだ。
風の槍:いや、ですからね……そんな所に座られてると困るんですって!
長政:……。また何か襖の向こうで騒いでおるな……どこまでも騒々しい奴等だ。
無視だ。無視を決め込むぞ、浅井長政。これ以上休日を掻き回されてなるものか。
お市:………どうして、貴方が困るの……?
長政:む?あの声は……市か?
兵士:ひい様をこんな廊下に座らせておくわけにはいかないんですって。
お市:市は……平気。正座は……得意……なの。
風の槍:正座に得意もへったくれもありません。駄目ですよ、絶対。
見張りなら、自分が代わりにやりますから。ひい様はお部屋で……
お市:いいの……。市が……見張るの。誰も……長政様のお部屋に……近づけないように。
長政:……何をしておるのだ(溜息)。さっさと自室に戻るよう、言っておくか…(立)
お市:長政様の……久しぶりの……大事な……お休み。市が……守るの。
長政:……(止)。
お市:市……知ってるわ。兄様と……朝倉との……話。長政様は……今……とても……
大変なの……。だから……せめて……折角の……お休みくらい……
「嗚呼、楽しい休日だった……」って……言って……欲しい。
長政:………。
お市:市は……なんの……役にも……立たないけど……、
笛も……庭掃除も……お料理も……。何一つ……満足に出来ない……けど……
ここで…みんなに……「入っちゃ駄目」って言うくらいなら……出来ると……思う。
だから……お願い。見張り番……やらせて?
風の槍:そんなこと言われても……(困)
長政:……市!(開)
お市:長政様……!本……読んでたんじゃ……ないの?
長政:こんな所で口論されて、心静かに読書などできるか。
お市:ごめんなさい……。
長政:……謝らずとも良い。……おい、お前。
風の槍:は、はい!
長政:ここはもう良い。自室へ戻れ。
風の槍:へ……?しかし先程命ぜられました見張りの方は……?
長政:良いと言っている。さっさと下がれ。
風の槍:は、はぁ……。……あ!成る程、そういうことですか~♪
長政:な、なんだ、その顔は!
風の槍:なんでもございません!邪魔者は退散いたします~。(去)
長政:……っ!!!まったく……どいつも此奴も余計なことばかり……(苛)
お市:……長政様、怒ってる……の?
長政:………。怒って等いない。
お市:でも……。
長政:市。
お市:はい……。
長政:………城下に……買い物にでも、行くか。
お市:え……?でも……雨……降ってるよ?
長政:何のために傘という物が存在すると思っているのだ。それとも……不服か?
お市:そんなことない!
長政:……っ!……お前がそのように大きな声を出すなど、珍しいな……。
お市:あ……。ごめんなさい……。でも……市、不服なんかじゃ……ない。
……行きたい…よ?でも……長政様の……折角のお休み……
長政:……。折角の休みだ。だからこそ……買い物へ行くのだ。付いてこい……市!
お市:……。はい……(嬉)
長政:それからさっきの汁粉だがな、悪くないぞ。
お市:本当……?
長政:これでもかというしつこい甘さが、後を引く。……また作れ。
お市:市……嬉しい。じゃあ今度は……メロンシロップとカスタードも入れて……
長政:い、いや、それは流石に……。
――あ~、ちくしょうはずかしい
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