休暇

――いつもと少ぉしだけ趣向を変えて。


佐助：今日も良い天気。洗濯物が良く乾くなぁ～、うん。……。
幸村：佐助ぇ！お館様が！お館様が！鼻から冷や麦……どうしたのだ？空など見上げて。
佐助：いやぁ……もうすぐ夏も終わるなぁと思ってさ。
　　　今年も洗濯物に埋もれて夏が過ぎていくのかと思うと、
　　　蝉の声が一段と哀しく聞こえるんだよ……。
幸村：よくわからぬが……休暇が欲しいということか？
佐助：ははは……いいよ、もう慣れてるし……。
　　　ホントは温泉行ってのんびりしたいとか、かすがに会いに行きたいとか、
　　　タイ式マッサージの割引券をいつか使えると思ってとってあるとか……
　　　でも、いいんだ。俺様には夏の間に雨戸を全て外して水洗いするという指名がある！
　　　それを終えないウチは……って、旦那？何してんの？
幸村：（がさごそ）確か……この辺りに……おぉ！在ったぞ！これを佐助に授けよう！
佐助：何？これ……温泉…旅…館…宿泊……券っ！？
幸村：母の日に用意したのを忘れていたぞ。日頃世話になっておるしな！
　　　家事のことは心配するな！某達でなんとかしよう！ゆるりと休んで来い。
佐助：だ、旦那（感涙）！！有り難う有り難う！
　　　敬老の湯って単語とか、母の日から何ヶ月たってるんだよとか、
　　　そもそも俺様母じゃないんだけどとか、多分家事何とかならないでしょとか、
　　　そんなこと全然気にならない！俺様頑張って休暇してくるよ！

佐助：で、来てはみたけど……。おぉ～！この旅館、なかなか素敵なトコだな～♪
仲居：ようこそいらっしゃいました。お荷物お持ちいたします。
佐助：どうも～お世話になります。あ、荷物？いいですよ。女性に持たせるわけにもねぇ。
仲居：いえいえ。私こう見えても結構強いんですのよお客様♪さぁ此方に……（だむん）
佐助：ぎゃぁぉう！？足の！足の小指に……。仲居さ～ん…荷物は落とさないでね～。
仲居：何故だ……。
佐助：へ？
仲居：何でお前がこんな所にいる！
佐助：何でと言われましても…？あれ？（じぃ～っ）かすが？
かすが：見るな！寄るな！そのまま回れ右して退場しろ！
佐助：相変わらずつれないねぇ……。何してるんだよ、こんなとこで。
　　　バイト？あ！転職？それなら俺大賛成だよ。仲居姿も似合ってるし～♪
かすが：任務だ任務！あ…！
佐助：忍びが感情に駆られて任務ばらしちゃ駄目でしょ？
　　　ま、そういう抜けてるトコも可愛いんだけどさ～。
かすが：貴様……切り刻まれたいのか？
女将：ちょっと新入りさん！手が空いたならこっちお願い！
かすが：あ、は～い！只今……
佐助：………。
かすが：感慨深げに微笑むな！

佐助：くぁ～！イイお湯だった。骨の髄まで染み渡るねぇ。
　　　かすがもいるし、こりゃ旦那には相当感謝しないとならないな。
　　　しかし……質素な割には、結構混んでる旅館だなぁ。
　　　……ん？なんか聞き覚えのある声が…。
長政：えええぇいい遅い！
佐助：（こそっ）あ…浅井んとこの…。何で男湯の前で痙攣してんだ？
長政：女の風呂は、何故こんなに時間がかかるのだ！もう知らん！知らんぞ！帰るぞ！
佐助：待たされて苛ついてんのか……。
長政：帰る！帰るぞ！………もう待てん！……あと二十秒が限界だ！
　　　い～ち、にぃ～、さ～ん………にじゅぅうううぅ……おい！まだか！？
佐助：帰りたきゃ帰ればいい物を……。
お市：長政様……
長政：遅いぞ市！私が一体何分待たされたと思っているのだ！
　　　時は貴重な財産だ！遅刻は待たされる人間から、財産を奪う行為なのだ！
　　　即ち悪！露天風呂に熊が出たのではないか、湯あたりしたのではないかと、
　　　死ぬほど気を揉んでいた私の身にもな……一体何を言わせるのだ市！（地団駄）
お市：ごめんなさい……ごめんなさい……
長政：もう良い！部屋に帰るぞ！
お市：あの……長政様……？市……フルーツ牛乳……買ってきたの……。飲まない……？
長政：ふ、ふるっ…！？何処で私の好物を知ったのだ……。貸せ。
お市：ふふ……長政様……嬉しそう……よかった……
長政：（ごくごく）ぷはぁ～。………市は。
お市：……？
長政：お前は欲しい物は無いかと訊いているのだ！
お市：長政様……！市……黒ぉい……たまご……食べたい……な。
長政：ふん。ついてこい。
お市：……はい。
長政：浴衣はもっときちんと着ろ！あまり項を強調するような髪型をするでない！
　　　ただでさえじろじろ見ている輩が居るというのにお前という奴は……（くどくど）

佐助：……。
かすが：邪魔だ。
佐助：うわ！吃驚した…。
かすが：廊下の真ん中でぼんやりするな。料理が運べないだろう。何をしている。
佐助：いや……羨ましいなぁと。
かすが：……？
佐助：こっちの話。ところで、かすがの任務って、ひょっとして浅井を探りに来たのか？
かすが：そいつらに興味はない。奴等が来たのは偶然だ。
　　　　ある意味……運命かもしれんがな。
佐助：別の奴？じゃあ誰かな～？（ひょい）
かすが：か、勝手に他のお客様の部屋を覗くな！あ……
佐助：おぉっと、危ないよ～？不用意に動くと料理落っことしちゃうからね。
かすが：貴様……
佐助：へへ～。さぁ、上杉軍が探ってるのは誰かな～っと♪（がらり）

慶次：ネネ……。蝉が……イイ声で鳴いてるよ。
　　　夏の終わりに向けて、必死に生きてる、イイ声だな……。
　　　蝉も明日を見てるってのに、俺ぁ……お前が忘れられないんだ。
　　　笑ってくれよ。ネネ……。

佐助：（ぱたん）
かすが：ふん。残念だったな。その部屋は何の関係もない一般客の部屋だ。
　　　　私がこれから料理を運びつつ偵察するのは、その隣の……どうした？
佐助：しゃ、写真に……話しかけてた……。
かすが：…？
佐助：死ぬほど切ない姿目撃するから、ここ、開けちゃ駄目だよ。
　　　あの後ろ向きさ加減、伝染しちゃ困るからね。
かすが：何の話だ？

かすが：お食事、お持ちしました。
蘭丸：わ～！信長様ー！エビフライですよ！
濃姫：蘭丸君、はしゃぎ過ぎるとこぼしちゃうわよ？上総介様。御飯はどのくらいに？
信長：是非もなぁしぃ。
濃姫：中盛りですね。わかりました。
かすが：お飲み物は如何いたしま……
佐助：どうも～♪当店のサービス、特製かき揚げで～す♪
かすが：なっ……！
蘭丸：かき揚げー！！信長様！凄い、見たこともないかき揚げですよ！
信長：是非もなぁしぃ。
佐助：おいしいっしょ？じゃんじゃん食べてね～♪
かすが：ほ……ほほっ。喜んでいただけて光栄です～。………どういうつもりだ。
佐助：旦那の大好物、俺様特製かき揚げ。はい、あ～ん。
かすが：だみゃれ…消えうしぇろ……。
佐助：かき揚げ咥えたままじゃ、何言ってるかわかんないなぁ～？ウマイ？
かすが：ウマイ……。そうじゃない！何処まで私の邪魔をすれば気が済むんだ！
　　　　貴様の顔など見たくない。同じ空気を吸うも腹立たしい。
　　　　今から一切の呼吸をせず、即刻ここから立ち去れ……。
佐助：織田……ね。確かに、これを探るのは一大任務だ。
　　　お前の気合いが入ってるのも理解できる。
かすが：だから、消えろと言っている。
蘭丸：おねえさん、僕、オレンジジュースね！
濃姫：じゃあ私は……日本酒「鬼嫁」でもいただこうかしら。
かすが：あ、はい！只今！……貴様はさっさと消えろ。
佐助：お前は直ぐ突っ走る。今回も軍神の役に立とうと、捜査以上のこと、する気だろ？
かすが：何を……。私のクナイ！？いつの間に。返せ！
佐助：駄～目。三対一だよ？返り討ちに遭うのがオチだって。
かすが：私をなめるな！謙信様の……謙信様のお役に立てるなら、命など惜しくはない。
　　　　魔王さえ、どうにかすれば、あとは……
佐助：あっそ。じゃあ返すよ。
かすが：へ？な、何を急に……
濃姫：上総介様！お肉ばかりじゃいけません。春菊をこっそり避けていますね。
　　　野菜も食べないと、バランスがとれませんよ。
信長：ぜ、是非もな……
蘭丸：信長様～、僕が食べてあげるよ。
濃姫：蘭丸君！甘やかしちゃ駄目よ！
信長：丸……是非もなぁしぃ……（感謝）
佐助：魔王って、あれしか喋らないのか……？あ、かすが。俺に構わず、どうぞ遂行して。
かすが：くっ……貴様……。
佐助：ホント、直ぐ顔に出るよね。そんなに嫌なら、こんな武器、捨てちゃえよ（ぽーい）
かすが：あ！何をする、この馬鹿！
佐助：敵とはいえ、ほのぼの家族サービス真っ最中見せられちゃね。
　　　ましてお前の性格だ。どっちみち無理だよ。この状況で仕掛けるなんて。
　　　折角温泉地に来てるんだ。もっとゆったりして行けば？
　　　軍神も、案外休暇代わりに派遣してくれたのかもよ。
かすが：適当なことを言うな！大事な私の任務を、どうしてくれる！
　　　　謙信様に顔向け出来ないではないか！
佐助：う～ん。そのまま報告したら？俺に邪魔されて失敗しましたって。
　　　一応俺、武田の人間だし。軍神も、宿命のライバル相手じゃ仕方ないって言うだろ？
かすが：何をいい加減な……
佐助：魔王一家さん、お久しぶり～！真田忍隊が長、猿飛佐助、参上！
濃姫：何っ！？
蘭丸：こいつ……化けてやがったなぁ～！
信長：痴れ者が……。
佐助：と、いう訳で～……さいなら！（びゅーん）
濃姫：…………あら？
蘭丸：ああ！忍びがカラスで逃げちゃいますよ！濃姫様追わないと！まちやがれ～！！（走）
濃姫：そ、そうよね！追わなければ！お待ちなさい、武田が忍！（追）
信長：是非もなぁしぃ。（追）
かすが：………。馬鹿者が……。

佐助：たっだいまぁ～！
幸村：さ、佐助！早かったな………。
佐助：う～ん、いろいろあって長居出来なくなっちゃってさ。
　　　でも、イイ休暇になったよ。有り難う、旦那♪
幸村：う、うむ……。
佐助：あれ？ちょっと……？視線合わせてよ。え……何かあったわけ……？
幸村：いや……大したことは無い……と思う。
佐助：嫌な予感満載なんですけど。
幸村：ちょっとそのぉ……電子レンジが爆発したでござる。
佐助：えぇっ！？あ！卵入れたでしょ！あれほど駄目って言ったのに！
幸村：すまぬ……。ついでに白状すれば……風呂釜も爆発した。
佐助：嘘ぉ！？
幸村：押し入れも爆発した。
佐助：何で！？
幸村：お館様も爆発した。
佐助：どうして！？
幸村：何度も死ぬかと思ったぞ……。
佐助：あ～……そのドリフな頭を見れば、壮絶な現場は想像つくよ……。
　　　片っ端から雑巾持ってきて！一時で片付けるよ！
幸村：それでこそ真田忍隊が長！
佐助：……母って辛い（泣）